Originator Profile 憲章

発効日 2024年7月1日

Originator Profile 技術研究組合は2024年6月27日、Originator Profile(オリジネーター・プロファイル=OP)の基本理念と運用制度のあり方を定めた「Originator Profile 憲章」を制定し、7月1日を発効日とした。

OP憲章は、2023年11月にOP技術研究組合理事長の諮問機関として設置された有識者検討会「OP憲章起草委員会」が半年近く議論を重ね、取りまとめた。起草委員会は、情報空間のあり方などに詳しい学識経験者8人で構成され、宍戸常寿・東京大学教授、曽我部真裕・京都大学教授、山本龍彦・慶應義塾大学教授の3人が共同座長を務めた。

OP憲章は、以下の通り、前文、第1条「OPの基本理念」、第2条「OPを使う情報発信主体の基本姿勢」、第3条「OP運用の基本的考え方」、第4条「OP技術研究組合の基本姿勢」、第5条「倫理委員会」、第6条「憲章の見直し」から成る。

前文

インターネットの普及は、情報空間を大きく変容させた。いまやマスメディア以外の個人、団体、企業も自由に情報発信を行い、公共的事項に参与できるようになった。我々は、このことが、個人の自律性を高め、民主主義をより発展させるものと強く期待する。

しかし、我々がその方向性を見誤るならば、この期待は絶望へと転化する。我々がいま立っているのは、その分岐点である。インターネットの普及によりその民主化が叫ばれた情報空間には、報道機関や官公庁等の組織になりすまし、人々を誤導すべく情報発信する者、選挙や災害時に偽・誤情報を無責任に発信し、民主主義や我々の生命を危険にさらす者が多く出現し、その影響力を日増しに強めている。また、人々の関心・注目を収入源とする「アテンション・エコノミー」と呼ばれる経済モデルのもと、閲覧数・表示数といった指標が過度に重視され、その内容の真実性に責任をもたずに作られた情報が多く流通・拡散し、報道機関等が伝える情報のすぐ隣に何食わぬ顔で鎮座している。さらに近年では、生成AIの開発・普及が進み、真実との区別が困難な情報が容易に生成され、大量に拡散される傾向もみられる。こうして我々は、情報の真正性や信頼性を合理的に認知、判断できないまま、他律的・受動的に情報を摂取している状況に置かれているといえる。情報の真正性等に対するこのような認知の歪みは、我々の知る権利の主体的行使を妨げるだけでなく、個人の生命、身体、財産、さらには民主主義を危険にさらすことにもなるだろう。

このような情報空間の曲がり角において、インターネットの可能性に対する期待をなお維持し、健全な情報空間を将来世代に引き継ぐためには、具体的な行動が不可欠である。我々が自由と民主主義を希求する以上、絶望の靴音が聞こえる混沌たる情報空間を前に、傍観者でいることは決して許されない。

無論、インターネットへの期待を維持するための行動にはさまざまなものがありうるが、少なくとも、供給される情報が、主張される発信主体から実際に発信されたもので、内容の改ざん等がされていないこと(真正性)を我々が認知でき、かつ、情報の信頼性を合理的に判断しうる指標を普及させることが必要である。「Originator Profile」(オリジネーター・プロファイル、以下OP)は、このような目的のもと開発された。すなわち、OPは、我々が情報の真正性および信頼性を合理的に推測・判断しうるための指標となることで、自律的で主体的な情報選択ないし摂取を可能とし、もって知る権利の具体的実現に寄与することを目的としている。また、OPが、プラットフォーム事業者や広告主・広告事業者等にとって情報を評価する際の客観的指標として機能することで、情報空間の健全化に向けた各事業者の取り組みが促進されることも期待される。

OPが、このような理念のもとに適切に運用されることを保証するものとして、ここに本憲章を定める。OPにかかわるすべての者が本憲章に定められた内容を遵守し、それによって、個人の自律が尊重され、民主主義がより豊かに発展するインターネットの未来が実現されることを期待する。

第1条(OPの基本理念)

  1. OPは、その普及により、情報または情報発信主体の真正性および信頼性の判断指標となることで、情報流通にかかわる事業者等の責任ある行動を促し、情報受領者の知る権利の実現に貢献する。また、これをもって、健全な情報空間の構築を支援し、民主主義の健全な発展、個人の生命・健康の維持、身体・財産の保護に寄与することを目的とする。
  2. 本憲章における「真正性」とは、ある識別名称を名乗っている情報発信主体が、確かに当該名称を持つ実在する主体であり、かつその発信内容に改ざん等がないことをいう。
  3. 本憲章における「信頼性」とは、当該情報発信主体が、民主主義社会に対して責任ある発信主体として、第2条に掲げる基本姿勢を踏まえて自らが策定した情報発信ポリシーに従っていること、および当該ポリシーを実現するに足るガバナンスを備えていることをいう。

第2条(OPを使う情報発信主体の基本姿勢)

  1. OPを使う情報発信主体は、以下の各号に掲げる事項を踏まえて、情報発信のためのポリシーを策定し、公表しなければならない。
  1. OPを使う情報発信主体は、自らの業種・業態の実情に応じて、前項の情報発信ポリシーの実効性を確保するために必要なガバナンスの整備に努めなければならない。
  2. OPを使うマスメディアは、情報の発信と流通に極めて大きな社会的責任を有することを踏まえたガバナンスを整備しなければならない。

第3条(OP運用の基本的考え方)

「OP技術研究組合」は、OPを使う情報発信主体に対するID付与に際して、以下の各号に掲げる事項を考慮し、本憲章が遵守されることが合理的に示されているかどうかを審査しなければならない。

第4条(OP技術研究組合の基本姿勢)

OP技術研究組合(第5条にいう倫理委員会、第6条にいう憲章委員会を含む)は、OPへの信頼を維持するため、以下の各号に掲げる事項を遵守しなければならない。

第5条(倫理委員会)

  1. 倫理委員会は、OPが高い倫理性をもって運用されることを確保するため、OP技術研究組合の理事長により設置される。倫理委員会の委員は、人格が高潔であって、 デジタル社会のあり方に一定の識見を有する法律家や技術者等のなかから、理事長が委嘱する。
  2. 倫理委員会は、OPを使った情報発信について問題があるなどとして、一般市民から通報があった場合、団体内部から通報があった場合、報道機関等により指摘があった場合等に、必要な調査を行うことができる。
  3. 倫理委員会は、必要な調査を行ったうえで、当該情報発信主体の情報発信ポリシーが遵守されているかについて審査を行い、その状況に照らし、当該情報発信主体に対して以下の各号に掲げる措置を取るよう、理事長に求めることができる。

第6条(憲章の見直し)

  1. 本憲章は、施行後、社会環境の変化やデジタル技術の進展に照らし、必要に応じて柔軟に見直されなければならない。
  2. OP技術研究組合の理事長は、本憲章の見直しが必要とされる場合、人格が高潔であって、デジタル社会のあり方に一定の識見を有する法律家や技術者等のなかから委員を指名したうえで、憲章委員会を招集する。憲章委員会は、憲章の改正案を策定し、理事長に提出する。理事長は、改正案を理事会に諮り、憲章の改正について承認を得る。

【OP憲章起草委員会】(五十音順、敬称略)

  • 宍戸 常寿 (東京大学大学院法学政治学研究科教授)★
  • 鈴木 秀美 (慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所教授)
  • 曽我部 真裕 (京都大学大学院法学研究科教授)★
  • 鳥海 不二夫 (東京大学大学院工学系研究科教授)
  • 長塚 真琴 (一橋大学大学院法学研究科教授)
  • 林 秀弥 (名古屋大学大学院法学研究科教授)
  • 水谷 瑛嗣郎 (関西大学社会学部准教授)
  • 山本 龍彦 (慶應義塾大学大学院法務研究科教授)★

(注)★は共同座長